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長野地方裁判所 昭和48年(行ク)2号 決定 1973年3月16日

申立人 小松武政 外一三八名

(被申立人)長野県知事

訴訟代理人 矢島武 外三名

主文

本件申立てはいずれも却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

第一申立ての趣旨および理由

別紙(一)、(二)、(三)記載のとおり<省略>

第二被申立人の意見

別紙(四)、記載のとおり<省略>

第三当裁判所の判断

一  被申立人は、日本国有鉄道岐阜工事局長が土地収用法第一一条第一項但書の規定により昭和四八年三月六日に被申立人に対してなした別紙目録(五)<省略>記載の土地立入通知岐工事五〇一四号(以下本件通知という)を受け、同年三月八日土地収用法第一一条第四項に基づき、別紙目録(六)<省略>記載の公告(以下本件公告という)をなしたことは当事者間に争いがない。

二  ところで、本件通知は少なくとも代理表示の記載なく、固有の権限を有しない地方工事局長名でなされた瑕疵ある行為であるが、申請人らの求める取消しの対象は本件公告であるからその処分性について判断する。

土地収用法第一一条によれば事業の準備のために他人の占有する土地に立ち入つて測量又は調査をする必要がある起業者は、所定の事項を記載した申請書を当該区域を管轄する都道府県知事に提出して立入の許可を受ける、但し起業者が国又は地方公共団体であるときは、所定の事項を都道府県知事にあらかじめ通知することをもつて足り(第一項)、都道府県知事の許可を受けた起業者又は第一項但書の規定によつて都道府県知事に通知をした起業者は、土地に自ら立ち入り、又は起業者が命じた者若しくは委任した者を立ち入らせることができる(第三項)、と規定される外、同法第一三条には、土地の占有者は正当な理由がない限り、第一一条第三項の規定による立入りを拒み、又は妨げてはならないと規定している。又右第一一条第三項では同四項の都道府県知事の土地占有者に対する通知または公告があつたことを前提とせず、起業者が立ち入ることができると規定しており、第一一条第一項の許可なく立ち入つた起業者に対する罰則があるにかかわらず(同法第一四三条第一項)、第一一条第四項の通知又は公告以前に立ち入つた起業者に対する罰則がないこと、第一三条には第一一条第三項の許可又は通知をした起業者の立ち入りを受忍すべき旨定めていること等より判断すると、起業者の立入権、土地占有者側の立入り受忍義務は右第一一条に規定する都道府県知事の許可もしくは、これにかわる起業者の通知により発生するものと考えるべきである。してみると、申請人らの主張する種々の無効(取消)原因も、右通知に関するものといえる。

本件公告は、前記第一一条第四項に規定されているとおり、知事の土地占有地に対する通知にかわるものであり、単なる伝達的意味を有するにすぎず、他に右公告により生ずる効果は見出し難く結局行政処分ということはできない。

三  したがつて、申請人らの被申請人の本件公告の執行停止を求める申立ては不適法として却下すべきものである。申請人らのこの点に関する主張はいずれも理由がない。

(裁判官 野本三千雄 荒木恒平 村上光鵄)

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